「しんPrimero」さまが、AWCのお題「沼に引きずり込んだ1本」に寄稿して下さいましたので、謹んでご紹介させていただきます。もちろん、ゼニスのお話ですよね~??
X(旧Twitter)では「しんPrimero」というアカウント名でやっている通り、「沼に引きずり込んだ1本」といえばZENITHのEl Primero――
と思いきや実は違います。今でこそ知識が深まり、数々の高級時計に見惚れ翻弄される日々ですが、本当の始まりは「CASIO オシアナス」でした。
きっかけは二十歳のころ、バイト先の先輩が自慢してきたWIEREDのクロノグラフでした。制服姿の腕元に煌めく1本は「デキる大人のアイテム」として映り、強い憧れを抱きました。その先輩がいけ好かないやつだったというのは置いておきも、とにかくキマっていたのです。
そこから「腕時計」というアイテムを目で追うようになりましたが、当時の僕は家を飛び出たばかりで食うにも困ることがある有り様。時計なんて高級品を買う余裕は有りません。ショーケースを見てはため息をつき諦める日々でした。
しかし憧れは簡単に捨てきれず、なんとかお金を貯め、ついに買う決意をします。当然知識はないものですから選ぶのは見た目と直感。量販店のCASIOのコーナで2本の時計と出会います。
1つはCASIO銘のクロノグラフ、もう1つがオシアナスでした。値段は1万ほど差があり、悩んだ末に両方試着。店員さんの「最初はこっちというお話でしたのでこれぐらい割引を――」という一言が決め手でした。
機種名はOCW-600。オシアナスの初代クロノグラフ。サファイアガラス、チタニウム素材にソーラ電波。防水性能も10気圧と頼もしく、おまけに各針にモータがついているという変態仕様。
これらを知ったのは数年後、腕時計に再度強い関心を抱いてからのことですが、思えば導かれていたのかもしれません。何故ならば、実用性、メーカーならではの独自技術、これらは僕が時計を選ぶ上で重要とする項目として今も根付いているからです。
時計趣味に傾倒していない人であれば十分すぎる1本なのですが、実は困った仕様も存在しています。CASIOというメーカーが純粋な時計メーカーではないからか、耐磁性能を公表していないのです。今でこそある程度考慮された設計にはなっているかもしれませんが、OCW-600が備えている確率はかなり低いでしょう。というのも針ズレを起こしたからです。
これは僕が現職のIT業界に足を踏み入れてから数ヶ月のことでした。職場には多数のPCが置かれており、場合によってはデータセンターに駆けつけサーバー機器を触ることが有りました。
そんな日々の中でふとOCW-600の針が微妙に合っていないことに気づいたのです。なんとか修正することができる範囲ではあったのですが、この出来事をきっかけに腕時計の磁気帯びについて学びました(そして調べていくうちに機械式時計というものを知り、沼の入口へと足を向けることとなったのは別の話――)
購入してから15年ほど経っていますが、OCW-600は今も元気に動いています。2次電池の交換も行ったのは1度きりです。この耐久性、さすがはCASIOと実感しております。もちろんベゼルもケースも傷だらけなのですが「時計は傷ついたほうがカッコいい」という言葉をすんなり受け入れられたのはOCW-600のお陰です。
そしてクロノグラフをいう時計が僕のルーツとなり、ZENITH「クロノマスターオリジナル A3817」と出会うことになったのも間違いなくこの子と過ごした日々があったからでしょう。
また、日本の時計への強い敬意もOCW-600を使い倒したからこそ抱いているものです。今でもよく見れば、細部までよくできた時計だと感じます。
ダイヤルのサンレイ仕上げ分け、3カウンターを設ける際に作られた段が生み出す立体感。スペックは前述の通り盛りだくさん。これを良くもまあこれを当時4万いかない価格で買えたものだなあと感心するばかりです。
腕時計といえば機械式ばかりがもてはやされるのは、伝統的な技術の評価や永く使えるメンテナンス性から仕方ないことなのかもしれません。しかし日本のクオーツ時計に詰め込まれた技術については、再度認識を改めなければならないと強く思います。
ここまで書いて見直すと、OCW-600は僕を直接「時計沼」に誘った案内人では無いかもしれません。ただ振り返れば振り返るほどOCW-600と過ごした日々が、今の時計との付き合い方に結びついているのは間違い有りません。だからこそ「OCW-600」を「沼に引きずり込んだ1本」に選んだのです。
機会があればオシアナスというコレクションについて、もっと深く振り返ろうと考えています。
「この人、絶対にゼニス大好きだよね」と誰もが思うであろう「しんPrimero」さまのアカウントネーム。当然、沼もそちら方面から… と思わせておいての「オシアナス」。とてもニクい展開で思わず引き込まれてしまいました。
カシオの時計はあらゆる時計沼の入り口になり得る魅力を持っていると思います。それは「独自性」と「先進性」。腕時計愛好家なら、常にワクワクさせてくれるカシオの「次の一手」に無関心ではいられないはずです。
「しんPrimero」さま。素敵なストーリーをありがとうございました。
テーマへのご寄稿、誠にありがとうございました。
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